第9章|アドリブソロの作り方

「アドリブなんて、才能のある人がやるものでしょ?」
——違います。アドリブは手順です。そして、その手順に必要な知識はすでに第8章までで全部そろっています
この章では、それを実際に音を出すための順番に組み直します。読み終わったら、そのまま練習を始められる構成にしました。

まず、3つの誤解を捨ててください
  • 誤解①「アドリブ=自由に弾く」 → 実際は逆。制約があるから成立します。使う音を絞るほど、上手く聞こえます
  • 誤解②「速く弾けるほどすごい」 → 速さは表現の一つにすぎません。アドリブは「歌う」こと。歌えないフレーズは、聴き手にも届きません
  • 誤解③「才能がいる」 → 必要なのは語彙の量です。言葉を知らずに話せないのと同じで、フレーズを覚えた数だけ喋れるようになります

レベル1|ペンタトニック1本で始める

最初にやることは、使う音を5つに絞ることです。マイナーペンタトニック(第4章)——イ短調なら ラ・ド・レ・ミ・ソ の5音だけ。

なぜ5音だと外れないのか

7音のスケールから2つの音を抜いているのがペンタトニックです。抜かれているのは、コードとぶつかりやすい音
だから「どこを弾いても、そこそこハマる」状態になります。間違えようがないという安心感が、最初の一歩には何より大事です。

練習|このバッキングに合わせて、5音だけで遊ぶ

最初の課題は、たったこれだけ
  • ①1小節に2〜3音しか弾かない。音数を減らすほど、それらしく聞こえます
  • ②音を伸ばす。弾いたら、次を急がない
  • ③休む。4小節のうち1小節はまるごと休んでみる

初心者のアドリブが「アドリブっぽくない」いちばんの理由は、音数が多すぎることです。減らすだけで、驚くほど良くなります。

レベル2|コードトーンを狙う(ここが最大の分岐点)

ペンタトニックは「コードが変わっても同じ音でいける」のが長所であり、同時に短所です。どのコードのときも同じに聞こえてしまう。

そこで次の段階。コードが変わるたびに、そのコードの構成音を狙いに行く。これができるようになると、ソロがコード進行と会話し始めます。ここが、アドリブ最大の分かれ道です。

狙うべきは「3度」と「7度」

コードの構成音のうち、ルートと5度は当たり前すぎて色が出ません。第1章でやったとおり、コードの性格を決めているのは3度。そして第2章でやったとおり、7度が方向を決めます

  • 3度を弾く → 明るい/切ないがはっきり出る
  • 7度を弾く → 「進みたい/とどまる」が出る
  • コードが変わる瞬間(小節アタマ)にこの音を置く → プロっぽく聞こえる
聴き比べ:同じ進行の上で、ペンタだけ vs コードトーン狙い

下の2つは同じ Dm7G7CM7 の上を通っています。上はペンタ的な動き、下はコードトーンを追った動きです。

下のほうは、Dm7 の音(レファラド)から、G7 の音(シ・ソ・ファ)を通って、CM7 の「ミ」に着地しています。音の数はほぼ同じなのに、ちゃんと「進行を弾いている」ように聞こえます。

だから、アルペジオ練習が効きます

コードトーンを狙うには、コードの構成音が指に入っていることが前提です。そのための練習がアルペジオ(第2章)。コードをバラして順番に弾くだけの、地味だけれど最強の基礎練習です。

ハ長調のアルペジオ譜例
ミュージックカラー オリジナル教材「基礎練習シリーズ【アルペジオ】」より(ハ長調)
アルペジオ練習の3段階
  • ①上って下りる … ド・ミ・ソ・ド/ド・ソ・ミ・ド。まずは指に覚えさせる
  • ②途中から始める … ミ・ソ・ド・ミ/ソ・ド・ミ・ソ。転回形(第2章)で入れるようにする
  • ③進行に沿って弾く … C→Am→Dm→G7 の構成音を、途切れずにつなげる

③ができるようになると、それはもうアドリブです。あとはリズムを崩し、音を抜き、休符を入れれば、そのままソロになります。

レベル3|スケールでつなぐ

コードトーンがだとすれば、スケールはです。コードトーンとコードトーンのあいだを、スケールの音で埋めていきます。

つなぎ方やり方効果
経過音コードトーンとコードトーンの間を、スケールで階段状に埋めるなめらか。歌っている感じが出る
刺繍音コードトーンから隣の音へ行って、また戻る(ミ→ファ→ミ)装飾。同じ音の繰り返しを避けられる
アプローチノート狙う音の半音下から入る(ミを狙うならレ♯→ミ)いちばん効く。ジャズらしさが一気に出る
先取り次のコードの音を、変わる直前にフライングで弾く前のめりの推進力が生まれる
アプローチノートを聴いてみる

同じ「ミ」に着地するのに、半音下の「レ♯」から入るだけで表情が変わります。

レベル4|モード(教会旋法)で色をつける

第4章で名前だけ出てきたモード。正体は「同じ7音を、どこから始めるか」です。白鍵だけの音でも、どこを主音と感じるかで7つの違う表情が生まれます。

モード白鍵で言うと特徴音キャラクター/使いどころ聴く
イオニアンド からふつうのメジャースケール。明るい
ドリアンレ から6度が高いマイナーなのに湿っぽくない。ジャズ・ファンク・シティポップの主役
フリジアンミ から2度が低いスペイン・中東・メタル。緊迫感と異国情緒
リディアンファ から4度が高い浮遊感・幻想的。映画音楽、ゲームの空や宇宙の場面
ミクソリディアンソ から7度が低い力強く開放的。ロック、ブルース、I-♭VII-IV の響き(第6章)
エオリアンラ からふつうの自然的短音階。切ない
ロクリアンシ から2度も5度も低い極度に不安定。実用はほぼ m7(♭5) 上のみ
まずはドリアンとリディアンだけ

7つ全部を覚える必要はありません。実際によく使うのはドリアンミクソリディアン、そしてリディアンの3つです。
コツは「特徴音を鳴らすこと」。ドリアンなら6度、リディアンなら4度。その1音を弾かないと、ただのマイナー/メジャーに聞こえてしまいます。

レベル5|ブルーノートとテンション

ブルーノート

マイナーペンタに♭5を足したものがブルーススケール(第4章)。この足された1音がブルーノートで、「泣き」の正体です。

ブルーノートは長く伸ばさないのがコツ。通り過ぎる一瞬だけ鳴らすと、いちばん色っぽく響きます。

テンションは V7 の上で

第3章で保留にしていたテンション。実践での使いどころは、ほぼドミナント(V7)の上です。もともと緊張しているコードなので、多少濁らせても壊れない——というより、濁らせるほど解決が気持ちよくなります

V7 を濁らせてから解決する

フレーズの組み立て方|「弾く」より「喋る」

音の選び方が分かっても、それを並べる技術がなければソロにはなりません。ここは音楽理論というより、話し方の技術です。

①問いと答え(コール&レスポンス)

2小節「問いかけ」→ 2小節「答え」で4小節をひとまとまりにします。
問いは宙ぶらりんに終わらせる(コードトーン以外の音で止める)、答えはしっかり着地させる(ルートや3度で止める)。これだけで、フレーズが「意味を持って」聞こえます。

②休符は、音と同じくらい大事

管楽器や歌にはブレスがあります。ギターやピアノにはそれがないので、意識して休まないと、ずっと喋り続けている人になってしまいます。
目安は、鳴っている時間と同じくらい休むこと。休符があるからこそ、次のフレーズが聴き手の耳に入ります。

③同じフレーズを、1音だけ変えて繰り返す

第8章の「99%同じで1%だけ違う」が、ここでも効きます。まったく新しいフレーズを次々出すより、同じ形を少しずつ変えていくほうが「上手い」と感じられます。
聴き手は覚えられるものしか味わえないからです。

④ソロ全体にも起承転結を

第8章でやったエネルギーの設計を、ソロの中でも使います。
低く・少なく・静かに始めて、だんだん高く・多く・激しくしていき、最後にいちばん高い音を1回だけ。最初から全力で弾くと、行き場がなくなります。

1日15分の練習メニュー

時間内容ねらい
5分アルペジオコードトーンを指に入れる。メトロノームに合わせて、ゆっくり正確に。1日1〜2調ずつ
5分スケール音の並びを体に入れる。同じ調のアルペジオとセットで
5分実際にソロを吹く/弾く上のバッキングに合わせて即興。録音して聴き返すと上達が段違いに速くなります
録音は、いちばん効く上達法です

弾いている最中は、自分の演奏を客観的に聴けません。録音して翌日に聴くと、音数の多さ・休符のなさ・同じフレーズの多用が、驚くほどはっきり分かります。
スマホのボイスメモで十分。週に1回でいいので、必ず聴き返してください。

15調のアルペジオ譜例

TOKYOミュージックカラー音楽教室のオリジナル教材「基礎練習シリーズ【アルペジオ】」より。スケール(第4章)とセットで練習するのが、いちばん効率的です。

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楽器別のコツ

楽器アドリブで意識すること
ギターペンタの「型」を1つ完璧に覚えてから広げる。チョーキング・スライド・ビブラートが表現の8割。指板の位置ではなく「いま何度の音を弾いているか」を意識できると一気に伸びます
ピアノ左手でコード、右手でソロ。左手はルートと3度・7度だけに絞ると、右手が自由になります。指使いを決めてしまうこと
サックス・トランペット
フルート・クラリネット
ブレスの位置がフレーズの区切りになります。息が続く長さ=ちょうどいいフレーズの長さ。移調楽器は実音との差を必ず把握しておくこと
ベースルートから離れる勇気を。3度と5度を通るだけでラインが歌い出します
ボーカルスキャットも立派なアドリブ。まず声で歌えるフレーズだけを楽器で弾く、という順序は全楽器で有効です

第9章のまとめ

この章で覚えたこと
  • アドリブは才能ではなく手順。必要なのは語彙の量
  • レベル1=ペンタトニック5音に絞る(外れない体験をする)
  • レベル2=コードトーン、とくに3度と7度を狙う。だからアルペジオ練習
  • レベル3=スケールでつなぐ。半音下からのアプローチがいちばん効く
  • レベル4=モードで色をつける。まずはドリアン・ミクソリディアン・リディアン
  • レベル5=ブルーノートとテンション(V7の上で)
  • フレーズは問いと答え/休符/繰り返し/起承転結
  • 音数を減らす・録音して聴き返す——この2つがいちばん効きます

ここまでで、コード理論の実践的な内容はすべて完了です。
残る3章は、少し視点を変えます。第10章ではクラシックの名曲を、第11章ではコードが生まれた1000年の歴史を見ていきます。いま使っている技術が、どこから来たのか。知ると、演奏の説得力が変わります。

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アドリブは、一人で練習するのが難しい分野です

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