「アドリブなんて、才能のある人がやるものでしょ?」
——違います。アドリブは手順です。そして、その手順に必要な知識はすでに第8章までで全部そろっています。
この章では、それを実際に音を出すための順番に組み直します。読み終わったら、そのまま練習を始められる構成にしました。
最初にやることは、使う音を5つに絞ることです。マイナーペンタトニック(第4章)——イ短調なら ラ・ド・レ・ミ・ソ の5音だけ。
7音のスケールから2つの音を抜いているのがペンタトニックです。抜かれているのは、コードとぶつかりやすい音。
だから「どこを弾いても、そこそこハマる」状態になります。間違えようがないという安心感が、最初の一歩には何より大事です。
初心者のアドリブが「アドリブっぽくない」いちばんの理由は、音数が多すぎることです。減らすだけで、驚くほど良くなります。
ペンタトニックは「コードが変わっても同じ音でいける」のが長所であり、同時に短所です。どのコードのときも同じに聞こえてしまう。
そこで次の段階。コードが変わるたびに、そのコードの構成音を狙いに行く。これができるようになると、ソロがコード進行と会話し始めます。ここが、アドリブ最大の分かれ道です。
コードの構成音のうち、ルートと5度は当たり前すぎて色が出ません。第1章でやったとおり、コードの性格を決めているのは3度。そして第2章でやったとおり、7度が方向を決めます。
下の2つは同じ Dm7→G7→CM7 の上を通っています。上はペンタ的な動き、下はコードトーンを追った動きです。
下のほうは、Dm7 の音(レファラド)から、G7 の音(シ・ソ・ファ)を通って、CM7 の「ミ」に着地しています。音の数はほぼ同じなのに、ちゃんと「進行を弾いている」ように聞こえます。
コードトーンを狙うには、コードの構成音が指に入っていることが前提です。そのための練習がアルペジオ(第2章)。コードをバラして順番に弾くだけの、地味だけれど最強の基礎練習です。
③ができるようになると、それはもうアドリブです。あとはリズムを崩し、音を抜き、休符を入れれば、そのままソロになります。
コードトーンが骨だとすれば、スケールは肉です。コードトーンとコードトーンのあいだを、スケールの音で埋めていきます。
| つなぎ方 | やり方 | 効果 |
|---|---|---|
| 経過音 | コードトーンとコードトーンの間を、スケールで階段状に埋める | なめらか。歌っている感じが出る |
| 刺繍音 | コードトーンから隣の音へ行って、また戻る(ミ→ファ→ミ) | 装飾。同じ音の繰り返しを避けられる |
| アプローチノート | 狙う音の半音下から入る(ミを狙うならレ♯→ミ) | いちばん効く。ジャズらしさが一気に出る |
| 先取り | 次のコードの音を、変わる直前にフライングで弾く | 前のめりの推進力が生まれる |
同じ「ミ」に着地するのに、半音下の「レ♯」から入るだけで表情が変わります。
第4章で名前だけ出てきたモード。正体は「同じ7音を、どこから始めるか」です。白鍵だけの音でも、どこを主音と感じるかで7つの違う表情が生まれます。
| モード | 白鍵で言うと | 特徴音 | キャラクター/使いどころ | 聴く |
|---|---|---|---|---|
| イオニアン | ド から | — | ふつうのメジャースケール。明るい | |
| ドリアン | レ から | 6度が高い | マイナーなのに湿っぽくない。ジャズ・ファンク・シティポップの主役 | |
| フリジアン | ミ から | 2度が低い | スペイン・中東・メタル。緊迫感と異国情緒 | |
| リディアン | ファ から | 4度が高い | 浮遊感・幻想的。映画音楽、ゲームの空や宇宙の場面 | |
| ミクソリディアン | ソ から | 7度が低い | 力強く開放的。ロック、ブルース、I-♭VII-IV の響き(第6章) | |
| エオリアン | ラ から | — | ふつうの自然的短音階。切ない | |
| ロクリアン | シ から | 2度も5度も低い | 極度に不安定。実用はほぼ m7(♭5) 上のみ |
7つ全部を覚える必要はありません。実際によく使うのはドリアンとミクソリディアン、そしてリディアンの3つです。
コツは「特徴音を鳴らすこと」。ドリアンなら6度、リディアンなら4度。その1音を弾かないと、ただのマイナー/メジャーに聞こえてしまいます。
マイナーペンタに♭5を足したものがブルーススケール(第4章)。この足された1音がブルーノートで、「泣き」の正体です。
ブルーノートは長く伸ばさないのがコツ。通り過ぎる一瞬だけ鳴らすと、いちばん色っぽく響きます。
第3章で保留にしていたテンション。実践での使いどころは、ほぼドミナント(V7)の上です。もともと緊張しているコードなので、多少濁らせても壊れない——というより、濁らせるほど解決が気持ちよくなります。
音の選び方が分かっても、それを並べる技術がなければソロにはなりません。ここは音楽理論というより、話し方の技術です。
2小節「問いかけ」→ 2小節「答え」で4小節をひとまとまりにします。
問いは宙ぶらりんに終わらせる(コードトーン以外の音で止める)、答えはしっかり着地させる(ルートや3度で止める)。これだけで、フレーズが「意味を持って」聞こえます。
管楽器や歌にはブレスがあります。ギターやピアノにはそれがないので、意識して休まないと、ずっと喋り続けている人になってしまいます。
目安は、鳴っている時間と同じくらい休むこと。休符があるからこそ、次のフレーズが聴き手の耳に入ります。
第8章の「99%同じで1%だけ違う」が、ここでも効きます。まったく新しいフレーズを次々出すより、同じ形を少しずつ変えていくほうが「上手い」と感じられます。
聴き手は覚えられるものしか味わえないからです。
第8章でやったエネルギーの設計を、ソロの中でも使います。
低く・少なく・静かに始めて、だんだん高く・多く・激しくしていき、最後にいちばん高い音を1回だけ。最初から全力で弾くと、行き場がなくなります。
| 時間 | 内容 | ねらい |
|---|---|---|
| 5分 | アルペジオ | コードトーンを指に入れる。メトロノームに合わせて、ゆっくり正確に。1日1〜2調ずつ |
| 5分 | スケール | 音の並びを体に入れる。同じ調のアルペジオとセットで |
| 5分 | 実際にソロを吹く/弾く | 上のバッキングに合わせて即興。録音して聴き返すと上達が段違いに速くなります |
弾いている最中は、自分の演奏を客観的に聴けません。録音して翌日に聴くと、音数の多さ・休符のなさ・同じフレーズの多用が、驚くほどはっきり分かります。
スマホのボイスメモで十分。週に1回でいいので、必ず聴き返してください。
TOKYOミュージックカラー音楽教室のオリジナル教材「基礎練習シリーズ【アルペジオ】」より。スケール(第4章)とセットで練習するのが、いちばん効率的です。















アドリブ練習に必要な道具、全部そろっています
会員アプリ「マイミュージックカラー」にはメトロノーム・チューナー・音楽辞典・音楽ゲームが入っていて、登録は無料。この章のアルペジオ表・スケール表も順次公開していきます。アルペジオ練習はテンポ管理が命なので、メトロノームだけでも使ってみてください。
メールアドレスまたはLINEで、1分ほどで登録できます。| 楽器 | アドリブで意識すること |
|---|---|
| ギター | ペンタの「型」を1つ完璧に覚えてから広げる。チョーキング・スライド・ビブラートが表現の8割。指板の位置ではなく「いま何度の音を弾いているか」を意識できると一気に伸びます |
| ピアノ | 左手でコード、右手でソロ。左手はルートと3度・7度だけに絞ると、右手が自由になります。指使いを決めてしまうこと |
| サックス・トランペット フルート・クラリネット | ブレスの位置がフレーズの区切りになります。息が続く長さ=ちょうどいいフレーズの長さ。移調楽器は実音との差を必ず把握しておくこと |
| ベース | ルートから離れる勇気を。3度と5度を通るだけでラインが歌い出します |
| ボーカル | スキャットも立派なアドリブ。まず声で歌えるフレーズだけを楽器で弾く、という順序は全楽器で有効です |
ここまでで、コード理論の実践的な内容はすべて完了です。
残る3章は、少し視点を変えます。第10章ではクラシックの名曲を、第11章ではコードが生まれた1000年の歴史を見ていきます。いま使っている技術が、どこから来たのか。知ると、演奏の説得力が変わります。
「これで合っているのか分からない」——アドリブでいちばん多い悩みです。その場で聴いて、その場で直せる相手がいると、上達の速度がまったく変わります。TOKYOミュージックカラー音楽教室では、アルペジオ・スケールの基礎練習から実際のアドリブまで、段階を追ってレッスンしています。オンラインレッスンにも対応しています。