曲を聴いていて、「あ、いまのコードいい……!」とゾクッとする瞬間はありませんか。
その正体は、たいていこの章の内容です。キーの中の7つ(ダイアトニック)ではない、外から借りてきたコード——それをノンダイアトニックコードといいます。
前章までが「文法」だとすれば、ここからは「レトリック」。使いこなせると、曲の表現力が一段変わります。
第5章までで、耳は「キーの中の7つ」を無意識に予測できる状態になっています。だからこそ、そこに予測していない音が入ってくると、脳が「おっ」と反応する。
効果の正体は「予想外」です。だから使いすぎると効きません。ここぞ、という場所で1つ入れるのがいちばん効きます。
いちばんよく使われる、いちばん大事な技です。理屈はシンプルです。
第5章で「V7 はトニックへ強く帰りたがる」と学びました。ならば——行き先のコードを「仮のトニック」だと思って、その手前にV7を置いてしまえばいい。
たとえば Dm へ進みたいとき。Dmを一時的に「主役」だと考えると、その5番目は ラ。だから A7 を前に置く。すると A7 → Dm が、まるで小さな「V7→I」のように強く結びつきます。
ハ長調では、5つのセカンダリードミナントが作れます。行き先が何であれ、コード自体はすべてメジャーの7thになるのが特徴です。
| 記号 | コード | 行き先 | キーにない音 | キャラクター | 聴く |
|---|---|---|---|---|---|
| V7/II | A7 | Dm | ド♯ | しっとり、思わせぶり | |
| V7/III | B7 | Em | レ♯・ファ♯ | 力強く押し上げる | |
| V7/IV | C7 | F | シ♭ | ブルージー。IVへの助走の定番 | |
| V7/V | D7 | G | ファ♯ | 明るく開ける。サビ前で大活躍 | |
| V7/VI | E7 | Am | ソ♯ | 色気・切なさ。丸の内進行の主役 |
※VIIdim(Bdim)は不安定すぎて「仮の主役」になれないので、セカンダリードミナントは作りません。
V7/V=D7 は、「ドミナントのドミナント」なので特別にドッペルドミナントとも呼ばれます。D7 → G7 → C と並べると、ルートがレ→ソ→ドと4度ずつ上がる、強力な着地ができます。
もう一つの大きな技が借用和音(モーダルインターチェンジ)。同主調——つまり主音が同じマイナーキーからコードを借りてくる方法です(第4章)。
ハ長調(C)なら、ハ短調(Cm)から借ります。ハ短調のダイアトニックは Cm・Ddim・E♭・Fm・Gm・A♭・B♭。この中から使いたいものを、ハ長調の曲に持ち込むのです。
| 借りるコード | 度数 | 効果 | 聴く |
|---|---|---|---|
| Fm | IVm | 最頻出。切なさが一気に押し寄せる。通称「サブドミナントマイナー」 | |
| A♭ | ♭VI | 雄大・壮絶。ラスサビ前の盛り上げに | |
| B♭ | ♭VII | 力強く開ける。ロック・アニソンの定番 | |
| E♭ | ♭III | 意表を突く。急に空気が変わる | |
| Cm7 | Im7 | 同じルートのまま暗転。ドキッとする | |
| Ddim | IIdim | 不穏な陰り |
数ある借用和音のなかで、圧倒的によく使われるのが IVm。ハ長調なら Fm です。F → Fm → C の3つを並べるだけで、日本のバラードの空気が完成します。
コードとコードの間に dim(ディミニッシュ)を挟んで、ベースを半音でつなぐ技。第3章で「dim7 は等間隔だからどこへでも進める」と説明したのが、ここで効きます。
dim を目的地として使うことは、ほとんどありません。あくまでとなりのコードへ移る途中の1瞬。
コツは「ベースが半音で動くように置く」こと。それだけで、たいてい自然に響きます。
ジャズやシティポップで多用される、少し高度な技。G7 のかわりに、行き先の半音上のセブンス——ハ長調なら D♭7——を置きます。
なぜ入れ替えられるのか。理由はトライトーンです。
同じ2音です。つまり「帰りたがる力」の中身がそっくり同じなので、そのまま入れ替えられる。これをトライトーン代理(裏コード)といいます。
2番目の音を半音下げたメジャーコード。ハ長調なら D♭ です。18世紀のナポリ楽派が好んで使ったことから、この名前がつきました。
ノンダイアトニックの延長線上にあるのが転調。一時的に外の音を借りるのではなく、キーそのものを引っ越してしまうことです。
転調する理由はいろいろあります。景色を変えたい/盛り上げたい/歌える音域に収めたい/同じ進行に飽きさせたくない。やり方には、大きく5つのパターンがあります。
ラスサビでキーが上がるアレです。理屈は不要、上げるだけ。高揚感が一気に来ます。
ハ長調とイ短調は使う音がまったく同じ(第4章)。だから境目が分からないくらい自然に行き来できます。
主音はそのままで、長調⇔短調を入れ替えます。同じ場所なのに、昼と夜が入れ替わったような衝撃があります。
2つのキーの両方に属するコードを見つけて、そこで乗り換える方法。いちばん滑らかで、プロが多用します。
たとえば Am は、ハ長調ではVIm、ト長調ではIIm。どちらのキーにも住んでいるので、乗り換え駅にできます。
第4章の五度圏を思い出してください。となり合う調は、使う音が6つも共通しています。だから乗り換え駅(共通コード)がたくさんあり、自然に移れる。
逆に円の反対側へ飛ぶと、共通点がほとんどなくなるので、劇的で強引な転調になります。五度圏は「転調の難易度マップ」でもあるのです。
行きたいキーの V7 をいきなり鳴らして、力ずくで連れて行く方法。準備なしで景色が変わるので、驚きがあります。
パッシングディミニッシュも裏コードもクリシェも、共通しているのはベースが半音で動いていること。
どんなに変わったコードでも、ベースが滑らかにつながっていれば、耳は納得します。迷ったらベースを見てください。
効果の正体は「予想外」でした。予想外を連発すると、それが標準になって効かなくなります。
目安として、4小節の進行に1つ、あるいはサビの入口に1つ。少ないほうがよく効きます。
借りてきたコードには、キーにない音が入っています。そこにメロディが「元の音」を鳴らしていると、ぶつかります。
たとえば Fm(ファ・ラ♭・ド)の上でメロディが「ラ」を歌っていたら、ラとラ♭が同時に鳴って濁ります。コードを変えたら、必ずメロディと合わせて確認してください。
「いまのコード、なに?」を聴き取れる耳をつくる
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次の第8章では、いよいよ実践編。ヒット曲はこれらをどう組み合わせているのかを、構造の側から読み解きます。
借用和音も転調も、楽器で何度も鳴らすうちに「体が覚える」種類の知識です。TOKYOミュージックカラー音楽教室では、生徒さんの好きな曲を分析しながら、こうした技術を実際の演奏や作曲に落とし込むレッスンをしています。オンラインレッスンにも対応しています。