第7章|ノンダイアトニックと転調

曲を聴いていて、「あ、いまのコードいい……!」とゾクッとする瞬間はありませんか。
その正体は、たいていこの章の内容です。キーの中の7つ(ダイアトニック)ではない、外から借りてきたコード——それをノンダイアトニックコードといいます。
前章までが「文法」だとすれば、ここからは「レトリック」。使いこなせると、曲の表現力が一段変わります。

なぜ、外から借りると効くのか

第5章までで、耳は「キーの中の7つ」を無意識に予測できる状態になっています。だからこそ、そこに予測していない音が入ってくると、脳が「おっ」と反応する。
効果の正体は「予想外」です。だから使いすぎると効きません。ここぞ、という場所で1つ入れるのがいちばん効きます。

【1】セカンダリードミナント|次のコードを「仮の主役」にする

いちばんよく使われる、いちばん大事な技です。理屈はシンプルです。

第5章で「V7 はトニックへ強く帰りたがる」と学びました。ならば——行き先のコードを「仮のトニック」だと思って、その手前にV7を置いてしまえばいい。

たとえば Dm へ進みたいとき。Dmを一時的に「主役」だと考えると、その5番目は 。だから A7 を前に置く。すると A7Dm が、まるで小さな「V7→I」のように強く結びつきます。

聴き比べ:A7 を挟むだけで、こんなに変わる

ハ長調では、5つのセカンダリードミナントが作れます。行き先が何であれ、コード自体はすべてメジャーの7thになるのが特徴です。

記号コード行き先キーにない音キャラクター聴く
V7/IIA7Dmド♯しっとり、思わせぶり
V7/IIIB7Emレ♯・ファ♯力強く押し上げる
V7/IVC7Fシ♭ブルージー。IVへの助走の定番
V7/VD7Gファ♯明るく開ける。サビ前で大活躍
V7/VIE7Amソ♯色気・切なさ。丸の内進行の主役

※VIIdim(Bdim)は不安定すぎて「仮の主役」になれないので、セカンダリードミナントは作りません。

ドッペルドミナント(ダブルドミナント)

V7/V=D7 は、「ドミナントのドミナント」なので特別にドッペルドミナントとも呼ばれます。D7 → G7 → C と並べると、ルートがレ→ソ→ドと4度ずつ上がる、強力な着地ができます。

【2】借用和音|同じ主音の「短調」から借りてくる

もう一つの大きな技が借用和音(モーダルインターチェンジ)同主調——つまり主音が同じマイナーキーからコードを借りてくる方法です(第4章)。

ハ長調(C)なら、ハ短調(Cm)から借ります。ハ短調のダイアトニックは Cm・Ddim・E♭・Fm・Gm・A♭・B♭。この中から使いたいものを、ハ長調の曲に持ち込むのです。

借りるコード度数効果聴く
FmIVm最頻出。切なさが一気に押し寄せる。通称「サブドミナントマイナー」
A♭♭VI雄大・壮絶。ラスサビ前の盛り上げに
B♭♭VII力強く開ける。ロック・アニソンの定番
E♭♭III意表を突く。急に空気が変わる
Cm7Im7同じルートのまま暗転。ドキッとする
DdimIIdim不穏な陰り

サブドミナントマイナー(IVm)は、涙腺のスイッチです

数ある借用和音のなかで、圧倒的によく使われるのが IVm。ハ長調なら Fm です。F → Fm → C の3つを並べるだけで、日本のバラードの空気が完成します。

聴き比べ:Fm を入れるか、入れないか

【3】パッシングディミニッシュ|すきまを半音で埋める

コードとコードの間に dim(ディミニッシュ)を挟んで、ベースを半音でつなぐ技。第3章で「dim7 は等間隔だからどこへでも進める」と説明したのが、ここで効きます。

C から Dm へ、半音の橋を架ける
dim の使いどころは、ほぼ「通り道」です

dim を目的地として使うことは、ほとんどありません。あくまでとなりのコードへ移る途中の1瞬
コツは「ベースが半音で動くように置く」こと。それだけで、たいてい自然に響きます。

【4】裏コード|V7 のかわりに、半音上から降りてくる

ジャズやシティポップで多用される、少し高度な技。G7 のかわりに、行き先の半音上のセブンス——ハ長調なら D♭7——を置きます。

なぜ入れ替えられるのか。理由はトライトーンです。

G7 と D♭7 は、いちばん大事な2音を共有している
  • G7=ソ・・レ・ファ → トライトーンは シとファ
  • D♭7=レ♭・ファ・ラ♭・(ド♭) → トライトーンは ファとシ

同じ2音です。つまり「帰りたがる力」の中身がそっくり同じなので、そのまま入れ替えられる。これをトライトーン代理(裏コード)といいます。

聴き比べ:正面から帰るか、半音上からすべり込むか

【5】ナポリの和音(♭II)|クラシック生まれの切り札

2番目の音を半音下げたメジャーコード。ハ長調なら D♭ です。18世紀のナポリ楽派が好んで使ったことから、この名前がつきました。

転調|曲のとちゅうでキーを変える

ノンダイアトニックの延長線上にあるのが転調一時的に外の音を借りるのではなく、キーそのものを引っ越してしまうことです。

転調する理由はいろいろあります。景色を変えたい/盛り上げたい/歌える音域に収めたい/同じ進行に飽きさせたくない。やり方には、大きく5つのパターンがあります。

①半音・全音上げ転調(もっとも分かりやすい)

ラスサビでキーが上がるアレです。理屈は不要、上げるだけ。高揚感が一気に来ます。

②平行調へ転調(いちばん自然)

ハ長調とイ短調は使う音がまったく同じ(第4章)。だから境目が分からないくらい自然に行き来できます。

③同主調へ転調(明暗が反転する)

主音はそのままで、長調⇔短調を入れ替えます。同じ場所なのに、昼と夜が入れ替わったような衝撃があります。

④ピボットコード転調(共通のコードを乗り換え駅にする)

2つのキーの両方に属するコードを見つけて、そこで乗り換える方法。いちばん滑らかで、プロが多用します。

たとえば Am は、ハ長調ではVIm、ト長調ではIImどちらのキーにも住んでいるので、乗り換え駅にできます。

五度圏のとなり同士が、いちばん転調しやすい

第4章の五度圏を思い出してください。となり合う調は、使う音が6つも共通しています。だから乗り換え駅(共通コード)がたくさんあり、自然に移れる。
逆に円の反対側へ飛ぶと、共通点がほとんどなくなるので、劇的で強引な転調になります。五度圏は「転調の難易度マップ」でもあるのです。

⑤ドミナントで強引に持っていく

行きたいキーの V7 をいきなり鳴らして、力ずくで連れて行く方法。準備なしで景色が変わるので、驚きがあります。

使いこなすための3つのコツ

コツ①|ベースが半音でつながれば、たいてい自然

パッシングディミニッシュも裏コードもクリシェも、共通しているのはベースが半音で動いていること。
どんなに変わったコードでも、ベースが滑らかにつながっていれば、耳は納得します。迷ったらベースを見てください。

コツ②|1曲に何度も使わない

効果の正体は「予想外」でした。予想外を連発すると、それが標準になって効かなくなります。
目安として、4小節の進行に1つ、あるいはサビの入口に1つ。少ないほうがよく効きます。

コツ③|メロディとぶつからないか確認する

借りてきたコードには、キーにない音が入っています。そこにメロディが「元の音」を鳴らしていると、ぶつかります。
たとえば Fm(ファ・ラ♭・ド)の上でメロディが「ラ」を歌っていたら、ラとラ♭が同時に鳴って濁ります。コードを変えたら、必ずメロディと合わせて確認してください。

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第7章のまとめ

この章で覚えたこと
  • ノンダイアトニック=キーの外から借りるコード。効く理由は「予想外」
  • セカンダリードミナント=行き先を仮の主役にして、その V7 を手前に置く(A7・B7・C7・D7・E7)
  • 借用和音=同主短調から借りる。最頻出は IVm(サブドミナントマイナー)
  • パッシングディミニッシュ=すきまを半音で埋める通り道
  • 裏コード=V7 と同じトライトーンを持つ、半音上のセブンス
  • 転調は5種類=半音全音上げ/平行調/同主調/ピボットコード/ドミナント強行
  • 五度圏のとなりは自然、反対側は劇的

これで、コード理論の技術的な部分はほぼ全部です。
次の第8章では、いよいよ実践編。ヒット曲はこれらをどう組み合わせているのかを、構造の側から読み解きます。

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