第6章|定番コード進行カタログ

お待たせしました。いちばん実用的な章です。
ここに載せているのは、何十年ものあいだ数えきれない名曲を支えてきた「効く並び」。理論の理屈はいったん忘れて、まず聴いて、気に入ったものをそのまま使ってください。そのあとで「なぜ効くのか」を読めば、自分でアレンジできるようになります。

使う前に、3つのルールだけ
  • ①度数(ディグリー)で覚える。この記事はすべてハ長調で鳴らしますが、度数で覚えればどのキーでも使えます(第5章)
  • ②4小節1セットで繰り返す。ポップスはたいてい、4小節の進行をぐるぐる回して1曲になっています
  • ③スタート位置をずらしてもいい。同じ4つでも、始まる場所を変えると別物に聞こえます。これを回転といいます

【1】カノン進行|I - V - VIm - IIIm - IV - I - IV - V

元祖にして最強。17世紀ドイツの作曲家パッヘルベルの「カノン」で使われた8つの並びが、そのまま現代のポップスまで生き延びています。約350年、いまだに現役です。

効く理由はベースの動きにあります。分数コードを使って書き直すと、正体が見えます。

なぜ下降ベースは感動的なのか

上がっていく音は「高揚」、下がっていく音は「ため息・脱力・切なさ」と結びつきます。しかも1音ずつ順番に下りるので、聴き手は次に来る音を無意識に予測できる。「予測できる」+「切ない」=安心して感動できる。これがカノン進行の必勝パターンです。

【2】王道進行|IV - V - IIIm - VIm(4536)

日本のポップスでいちばん使われていると言っていい進行。度数の数字をとって「4536(ヨンゴーサンロク)」とも呼ばれます。

ポイントは最後がVImで終わること。第5章で学んだ偽終止です。Iに帰りきらないので、「終わらない」感じが残り、そのままループできる。4小節をぐるぐる回すポップスと、抜群に相性がいいのです。

【3】小室進行|VIm - IV - V - I(6451)

1990年代に小室哲哉さんが多用したことから、この通称で呼ばれています。切なく始まって、最後にパッと明るく着地するのが特徴。

最後のIを省いて3つで回す形も、現代のJ-POPでは非常に多く使われます。

【4】循環コード|I - VIm - IIm - V(1625)

ぐるぐる何周でも回れることから「循環」。1950〜60年代のポップスからジャズまで、あらゆる場所にあります。

【5】丸の内進行 / Just the Two of Us 進行|IVM7 - III7 - VIm7 - I7

おしゃれ進行の代表格。シティポップ、ネオソウル、R&Bの香りがする、あの響きです。日本では椎名林檎さんの楽曲名から「丸の内進行」、海外のスタンダード曲名から「Just the Two of Us 進行」という通称で呼ばれています(どちらも正式な音楽用語ではなく、愛称です)。

III7 の正体=セカンダリードミナント

ハ長調のダイアトニックでは3番目は Em のはず。それを E7 に変えているのがこの進行の肝です。E7 は Am へ強く進みたがるコード(Am から見たV7)。
このように「キーの外から借りてきて、次のコードへの引力を作る」技をセカンダリードミナントといいます。次の第7章の主役です。

【6】ツーファイブワン|IIm7 - V7 - IM7

ジャズの基本文型。SD→D→T という機能の流れが、いちばんきれいに出る3コードです(第5章)。

【7】ポップパンク進行|I - V - VIm - IV

世界でもっとも多く録音されたと言われる4コード。とにかく前へ進む力があり、明るく、覚えやすい。洋楽ロック、パンク、アニソン、CMソング——どこにでもあります。

【8】ブルース進行|12小節の型

ロック、ジャズ、R&B、ソウルのすべての源流。12小節で1周する決まった型があり、世界中のミュージシャンが初対面でもこれで合奏できます

最後の V7 は「もう1周するぞ」の合図

12小節目の G7ターンアラウンドと呼びます。Iに帰らずドミナントで止めることで、ぐるっと最初に戻る力が生まれる。第5章の「半終止」の応用です。

【9】ロックの定番|I - ♭VII - IV

ハ長調なのに B♭——キーの外の音が出てきます。でも不思議と、まったく違和感がありません。

これはミクソリディアンという音階(第4章で名前だけ出てきたモードの一つ)の響きです。7番目の音を半音下げると、「帰らなきゃ」という圧力が消えて、どこまでも進んでいける感じになります。

【10】クリシェ|1音だけを動かし続ける

コードはほとんど変わらないのに、内側の1音だけが半音ずつ動いていく技。第2章の分数コードでも登場しました。少ない材料で、最大のドラマを作れます。

【11】枯葉進行|長調と短調を行き来する

ジャズのスタンダード曲「枯葉(Autumn Leaves)」で有名な流れ。メジャーのツーファイブワン → マイナーのツーファイブワンと、2つの世界を続けて通ります。

【12】カノン進行の親戚たち

下降ベースの発想は、いろいろな形に化けます。

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定番進行の早見表

名前度数ハ長調ではキャラクター
カノン進行I V VIm IIIm IV I IV VC G Am Em F C F G壮大・感動・卒業ソング
王道進行(4536)IV V IIIm VImF G Em Am切ない・盛り上がる・ループに強い
小室進行(6451)VIm IV V IAm F G C疾走感・暗→明の逆転
循環コード(1625)I VIm IIm VC Am Dm7 G7安心感・何周でも回れる
丸の内進行IVM7 III7 VIm7 I7FM7 E7 Am7 C7おしゃれ・シティポップ・色気
ツーファイブワンIIm7 V7 IM7Dm7 G7 CM7ジャズの基本文型
ポップパンク進行I V VIm IVC G Am F明るい・前へ進む・世界最頻出
12小節ブルースI7 IV7 V7 の型C7 F7 G7すべてのロックの源流
ロック定番I ♭VII IVC B♭ F開放的・土くさい・壮大
クリシェI IM7 I7 IV などC CM7 C7 F1音だけ動かすドラマ
枯葉進行IIm7 V7 IM7 IVM7 IIm7♭5 V7 Im7Dm7 G7 CM7 FM7 Bm7-5 E7 Am7明→暗・ジャズの王道
下降マイナーIm ♭VII ♭VI V7Am G F E7哀愁・フラメンコ・ロックバラード

進行を「自分で作る」ための3つのコツ

コツ①|ベースラインから決める

カノン進行もクリシェも、正体はベースが順番に下りているだけでした。
だから作るときも、先にベースの動きを決めてしまうのが早い。「ド→シ→ラ→ソと下ろしたい」と決めてから、その上に乗るコードを選ぶ。これだけで、それらしい進行ができます。

コツ②|ルートが「4度上がる」とつながりが強い

Dm7→G7→CM7 を見てください。ルートがレ→ソ→ドと、完全4度ずつ上がっています。この動きはもっとも自然に「次へ進んだ」と感じられるもの。
迷ったら、ルートを4度上(=5度下)へ動かす。五度圏(第4章)を反時計回りに進むのと同じことです。

コツ③|終わり方で「その先」が決まる
  • Iで終わる → きちんと完結。曲の最後、セクションの区切り
  • Vで終わる → 続きがある感じ。Aメロの終わり、ループの折り返し
  • VImで終わる → 終わらずに切ない。サビをもう1回まわしたいとき

同じ4コードでも、最後の1つを変えるだけで曲の設計が変わります。

よくある質問|コード進行に著作権はあるの?

一般論として

ありふれたコード進行そのものは、著作物として保護されにくいと考えられています。「I→V→VIm→IV」のような並びはアイデアや素材に近く、誰かの独占を認めると音楽が作れなくなってしまうからです。実際、この記事に挙げた進行はどれも何千という曲で共有されています。

一方で、メロディ・歌詞・アレンジ・音源には当然ながら著作権があります。「進行を借りる」のは自由、「曲を借りる」のはダメ——そう覚えておけば、まず間違いありません。
※個別のケースの判断は専門家にご相談ください。ここでは一般的な考え方をご紹介しています。

第6章のまとめ

この章で手に入れたもの
  • 12の定番進行。度数で覚えれば、どのキーでも使えます
  • 効く進行には理由がある=下降ベース/4度上進行/終わり方の設計
  • 同じ4つでも、始まりをずらせば別物(回転)
  • Iで完結、Vで続く、VImで切なく引き延ばす

ここまでは、基本的にキーの中のコードだけで作ってきました。でも【5】丸の内進行の E7 や、【9】ロック定番の B♭ のように、キーの外から借りてくるコードがすでに何度か出てきましたね。
次の第7章では、その「ハッとする響き」の正体——セカンダリードミナント、借用和音、パッシングディミニッシュ、そして転調を扱います。

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