第5章|ダイアトニックコードと機能

ここが、全12章のなかでいちばん大事な章です。
第4章で「キーが決まる」ところまで来ました。すると次に、そのキーで使えるコードが自動的に7つ決まります。この7つをダイアトニックコードといいます。
そして7つにはそれぞれ役割(機能)があります。役割が分かると、コード進行は「暗記するもの」から「自分で組み立てるもの」に変わります。

スケールの音だけで、コードを積んでみる

やることはとても単純です。ハ長調の7つの音(ドレミファソラシ)それぞれの上に、そのスケールの音だけを使って1つ飛ばしで3つ積む。ただそれだけ。

ドの上に積めば ド・ミ・ソ。レの上に積めば レ・ファ・ラ。ミの上なら ミ・ソ・シ……。
黒鍵は一切使いません。白鍵だけで積み上げていきます。

何番目積んだ音できるコード性格聴く
1番目(ド)ド ミ ソCメジャー
2番目(レ)レ ファ ラDmマイナー
3番目(ミ)ミ ソ シEmマイナー
4番目(ファ)ファ ラ ドFメジャー
5番目(ソ)ソ シ レGメジャー
6番目(ラ)ラ ド ミAmマイナー
7番目(シ)シ レ ファBdimディミニッシュ
なぜ、勝手にメジャーとマイナーが決まるの?

白鍵だけで積んでいるのに、明るいコードと切ないコードが混ざりましたね。理由はミ↔ファ と シ↔ド だけが半音だから(第2章)。
この2か所の半音が、積み上げたときにどこに来るかで、長3度になったり短3度になったりする。並びの偏りが、そのままコードの性格の違いになっているのです。

ディグリーネーム|キーが変わっても使い回せる書き方

ここで、とても便利な道具を導入します。コードを「何番目か」というローマ数字で呼ぶ方法です。これをディグリーネーム(度数表記)といいます。

度数IIImIIImIVVVImVIIdim
ハ長調(C)CDmEmFGAmBdim
ト長調(G)GAmBmCDEmF♯dim
ヘ長調(F)FGmAmB♭CDmEdim
ニ長調(D)DEmF♯mGABmC♯dim
これが強力な理由

CGAmF」を I→V→VIm→IV と覚えておけば、どのキーでも同じ進行が作れます

  • ト長調なら GDEmC
  • ヘ長調なら FCDmB♭

移調が一瞬でできる。「キーを2つ下げて」と言われても、表を見ながら置き換えるだけです。プロの現場でコード進行の話をするときは、ほぼこの言い方をします。

同じ I→V→VIm→IV を、3つのキーで

キーは違うのに、まったく同じ「感じ」に聞こえるのが分かります。

四和音のダイアトニックコード

同じ要領で、もう1つ上まで積んで四和音にすることもできます。ポップスでもジャズでも、実際にはこちらのほうがよく使われます。

度数ハ長調構成音キャラクター聴く
IM7CM7ド ミ ソ シ安定+おしゃれ。曲の始まりと終わり
IIm7Dm7レ ファ ラ ド動き出す。Vへ向かう定番の助走
IIIm7Em7ミ ソ シ レふわっと浮く。Iの代わりにもなる
IVM7FM7ファ ラ ド ミ広がる・切なくなる。サビ前の定番
V7G7ソ シ レ ファ強烈に帰りたがる。7つの中で唯一のセブンス
VIm7Am7ラ ド ミ ソやわらかく切ない。もう一つの居場所
VIIm7(♭5)Bm7-5シ レ ファ ラ不安定。単独ではあまり使われない
7つの中で、V だけが「7」になる

よく見てください。M7が2つ、m7が3つ、m7(♭5)が1つ。そしてVだけが、ただの「7」です。
第3章で「7=進みたい/M7=とどまる」と学びました。つまりキーの中で、進みたがるコードはVただ1つ。この事実が、この先ぜんぶの土台になります。

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3つの働き|トニック・サブドミナント・ドミナント

7つのコードは、働きによって3つのグループに分けられます。ここが、この章の本題です。

機能記号ハ長調ではどんな感じ?
トニック
主和音
TC / Em / Am
I・IIIm・VIm
安定。ここが「家」です。始まりと終わりの場所。落ち着いていて、どこへでも出発できる
サブドミナント
下属和音
SDF / Dm
IV・IIm
動き出す。「外出した」状態。景色が変わって、少しふわっと広がる。まだ緊張はしていない
ドミナント
属和音
DG / G7 / Bdim
V・VIIdim
緊張。「早く家に帰りたい」状態。宙ぶらりんで落ち着かず、トニックへ強く引っぱられる
1日の行動にたとえると、そのままです

家にいる(T)→ 出かける(SD)→ 帰り道で急ぐ(D)→ 家に着く(T)
音楽の物語は、ほぼこの往復でできています。ずっと家にいると退屈、ずっと外にいると疲れる。行って帰ってくるから気持ちいい——これが「コード進行」の正体です。

なぜ V(ドミナント)はそんなに帰りたがるのか

理由は2つあります。どちらも、第2章・第4章で学んだことの応用です。

理由①|中にトライトーンが入っている

G7ソ・シ・レ・ファ。このうちシとファの距離は、増4度=トライトーン(第2章)。音楽でいちばん落ち着かない音程です。
そして解決するときは、シ→ド(半音上へ)、ファ→ミ(半音下へ)と、外側に開くように動きます。この2つの半音がそろって動くから、着地感が圧倒的に強いのです。

理由②|主音の半音下に「シ」がいる

スケールの7番目「シ」は、主音「ド」の半音下。半音は引力がとても強いので、シは常にドへ吸い寄せられます。この音を導音(どうおん)といいます。
第4章で「短調では7番目を半音上げる」と説明したのは、まさにこの導音を作るためでした。

聴き比べ:G と G7、どちらが強く帰りたい?

7を足すだけでトライトーンが生まれ、引力が一段強くなります。サビの直前でV7を使うと、盛り上がりが増すのはこのためです。

カデンツ(終止形)|文章でいう「。」の打ち方

T→SD→D→T のようなまとまりのある流れカデンツ(終止形)といいます。文章に句読点があるように、音楽にも区切り方のパターンがあります。

ツーファイブ(IIm7 → V7)

ジャズでもポップスでも、いちばん耳にする2コードの組み合わせです。SD→D という自然な流れで、しかもルートがレ→ソと完全4度上がる(=完全5度下がる)ので、進行感が強い。

IIm7 → V7 → IM7 の3つ並びはツーファイブワンと呼ばれ、ジャズの基本文型です。

代理コード|同じ働きなら、入れ替えていい

ここが、作曲でいちばん役に立つ考え方です。同じ機能グループの中なら、コードを入れ替えても流れは壊れません。

入れ替えられる理由は単純で、構成音が2つ共通しているからです。

機能代表代理共通する音入れ替えると
TC
ド ミ ソ
Am
ラ ド ミ
ド・ミ安定はそのまま、少し切なくなる
TC
ド ミ ソ
Em
ミ ソ シ
ミ・ソ安定はそのまま、ふわっと浮く
SDF
ファ ラ ド
Dm
レ ファ ラ
ファ・ラ広がりはそのまま、しっとりする
DG
ソ シ レ
Bdim
シ レ ファ
シ・レ緊張はそのまま、より不安定に
同じ骨組みを、代理コードで着せ替える

下の3つはすべて T→SD→D→T。骨組みは同じなのに、印象がまったく違います。

これが「アレンジ」の基本動作です。メロディを変えずに、下のコードだけを差し替えて印象を変える。プロが必ずやっていることです。

機能で覚えると、コード進行を「発明」できます

丸暗記した進行は、覚えた数しか使えません。でもT→SD→D→T という骨組み各機能の中身(T=I・IIIm・VIm/SD=IV・IIm/D=V・VIIdim)を知っていれば、組み合わせは自分で作れます
「3×2×2×3」で、これだけでも36通り。テンションや転回形を混ぜれば、事実上無限です。

マイナーキーのダイアトニックコード

短調でもやることは同じ。そのスケールの音だけで積むだけです。イ短調(Am)でやってみましょう。

度数イ短調構成音機能聴く
ImAmラ ド ミT
IIdimBdimシ レ ファSD
♭IIICド ミ ソT
IVmDmレ ファ ラSD
VmEmミ ソ シD
♭VIFファ ラ ドSD
♭VIIGソ シ レD

※構成音はハ長調とまったく同じ7つ。平行調だからです(第4章)。違うのはどれを「家」と感じるかだけ。

短調では、Vを V7 に作りかえます

上の表を見ると、5番目が Em になっています。マイナーコードなので、帰りたがる力が弱いのです。

そこで第4章でやったとおり、7番目のソをソ♯に上げます(和声的短音階)。すると Em(ミ・ソ・シ)が E(ミ・ソ♯・シ)に変わり、7を足せば E7強力に Am へ帰るコードの誕生です。

聴き比べ:Em→Am と E7→Am

この章でできるようになったこと

もう、曲が作れます
  • ①キーを決める(たとえばハ長調)
  • ②ダイアトニックコード7つを並べる(C Dm Em F G Am Bdim)
  • ③T→SD→D→T の骨組みで並べる(C→F→G7→C)
  • ④代理コードで着せ替えて、好みの色にする(Am→Dm7→G7→CM7)
  • ⑤その上にメロディを乗せる

これで曲は完成します。難しい理論は、ここから先は「もっと面白くするため」の話です。

第5章のまとめ

この章で覚えたこと
  • ダイアトニックコード=スケールの音だけで積んだ7つのコード
  • ハ長調なら C・Dm・Em・F・G・Am・Bdim(四和音なら CM7・Dm7・Em7・FM7・G7・Am7・Bm7♭5)
  • ディグリーネーム(I・IIm・V7…)で覚えると、どのキーでも使い回せる
  • 3つの機能=T(家)・SD(外出)・D(帰り道)
  • Vが帰りたがるのは、トライトーンと導音があるから
  • 同じ機能の中では入れ替え自由(代理コード)=アレンジの基本動作
  • 短調ではVを V7 に作りかえると劇的になる

骨組みが手に入りました。次の第6章では、先人たちが磨き上げてきた「効く並び」——カノン進行、王道進行、小室進行、丸の内進行——を、聴き比べながらカタログにしていきます。今日からそのまま曲作りに使える章です。

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